西東京バスの高速バス|安全への取り組みは?乗務員のスキルは?(インタビュー後編)
公開日:2017/08/23
更新日:2021/03/04
高速バス(夜行バス)を利用するにあたって、やはり安全性は気になるところです。
取材者は高速バス予約コールセンターで勤務していますが、
・どんな人が運転しているの?
・このバス会社は大丈夫なの?
・車両はちゃんと整備されているの?
……などなど、安全面に関して様々な質問を受けます。とくに、事故のニュースが流れると、いっせいにお問い合わせいただいた記憶があります。
「大丈夫だと思うけれど、なんとなく不安」。そんな人の参考になればと、西東京バスの安全対策について、インタビューおよびドライバーの出発準備に密着取材してきました。
さっそくご紹介しますね!
※そもそも西東京バスの高速バスって?という方は、インタビュー記事前半へ
1.運行管理者にきく、西東京バス安全への取り組み
1-1.夜行バス乗務員は、経験・運転技術・お客さまの声、すべて兼ね備えた選抜メンバー
――ここからは、安全への取り組みについてうかがいます。
西東京バス全体では、「貸切バス事業者安全性評価認定」で、3つ星認定をうけていらっしゃいますね。3つ星はこの評価制度の最高点です。
安全は、路線バス・貸切バス・そして今回お話しする高速バス、会社全体で何より気を使っています。そうした結果、認定をいただけたのはうれしいですね。
――高速バスは、いま安全性が特に注目されています。
具体的には、どういった取り組みをされていますか。
当社では高速バスに乗務できる者は、さまざまな基準をクリアし選抜された者のみとしています。教育も慎重に行なっています。
――基準というと?
まず、路線バスや貸切バスの乗務経験年数。単純に年数を経ていればいい訳ではなく、その中でも運転技量やお客さまからの苦情がないかなど、総合的に見ています。
――技術だけでなく、乗客から見た乗務への姿勢も重要だと。
はい。そのために路線バスでは「モニター制度」というものを導入しています。
お客さま目線で採点していただくというものですね。
――そうした総合的な実績から、高速バスを担当できるか判断するのですね。
とはいえ、基準をクリアすればすぐ乗務できるかといえば、そうではありません。
その後に様々な研修が用意されています。
1-2.夜行バスに乗務するまでに経る、多くの研修
――どのような研修でしょうか。
路線バスで乗務していたのとは違う、12mバス車両に乗務することになります。
運転するにあたっての12mならではの特性もありますし、高速道路の走行についても学んでもらいます。
乗車券の取り扱いや緊急時の対応など、夜行バスならではの知識も必要です。
――それをクリアして、やっとデビューできると。
とはいえ、夜行の都市間高速バスに乗務できるのはまだ先。
まずは高速バスの中でも、比較的短距離かつ日中に運行する、空港連絡バスから乗務を行います。
――段階をふみ、一つひとつの基準を満たしていくのですね。
はい。そうして経験・実績ができたら、次は夜行バスを運転するにあたっての研修です。
夜行バスならではの注意点、ノウハウがあります。時間帯が変われば、高速道路を走行する他の車両のタイプも変わりますので、日中帯と深夜帯では、おのずと走り方が変わってきます。
また土地勘のない遠方地、現在の路線でいえば香川・愛媛・大阪・京都・石川と東京とを往復するのですから、現地へのルートやバス停周辺の把握も必要です。
1-3.ベテラン揃いならではの強みとこれから
――「バスの運転手さん」と一口に言っても、身につけるべき知識は大きく変わるのですね。
はい。ただ、こういった夜行バスならではの部分は、座学や何度かの現地研修で身につけきれるものでもありません。
乗務員間で、それぞれ乗務する中で遭遇した事例や、「こうすればもっとお客さまにとって良いのではないか」と話しあったり、先輩が同乗した後輩に伝えたりといった、経験の共有が弊社の強みになっていますね。
――乗務開始後の研修などフォローアップはありますか。
毎年、定期研修を行ない、すべての乗務員に事故防止やお客さまサービス向上などの教育を実施しています。あわせて、会社上層部との懇談会も行ないます。
乗務員は日々外に出ていますし、意思疎通や情報交換の場を定期的にもつことが大切ですから。
――なるほど。あと、お話から経験豊かな方が多いような印象をうけました。
そうですね、30代から40代にかけてが中心です。
国土交通省 関東運輸局 東京運輸支局長表彰を受けている乗務員が何人もいますね。
これは、推薦するにあたって、乗務年数や無事故歴など実績の条件があるものです。
――それを聞くと、私も高速バス乗客の立場として安心しますね。
経験豊かな乗務員たちは、西東京バスの財産であり、強みです。
ただ、今後の課題もあります。
――課題とは?
若手へのノウハウ継承ですね。
路線バス等で経験を積んでから高速バスへ配属されるため、20代はなかなかいないのですが、今の乗務員たちもいつかは年齢を重ねていきます。
高速バスを任せられる若手を育成していくことは、今後長い目で見たとき、重要な課題ですね。
――なるほど。今後も10年、20年と、安心して地域の方に愛される高速バスであってほしいですね。本日はありがとうございました!
2.バスの点検・点呼・出発準備って?密着レポート
夜行バスが出発する前、バス会社ではどんな準備をしているのでしょうか。
安全のための点検とか、いろいろありそうです。
今回、オレンジライナー号(新宿・横浜~松山・八幡浜線)の出発前に密着しました。
順をおってレポートします!
~オレンジライナーについて~
片道約940km、所要時間13時間35分!乗務員2名運行でいく、長距離路線です。
新宿・横浜から愛媛方面へ向かうダイヤはこちら。
19:50 新宿高速バスターミナル(バスタ新宿)
20:50 横浜駅西口22番
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
07:20 川内インター
07:30 松山インター口
07:35 余戸南インター口
07:55 松山市駅
08:00 松山室町営業所
08:10 大街道
08:15 道後温泉
09:05 内子
09:25 大洲本町
09:30 西大洲
09:45 八幡浜
始発のバスタ新宿を出るのは19:50ですが、準備は通常約2時間前から始まっています。
この日は7月の3連休まっただなか。
バスタ新宿までの渋滞を想定して、少し早めにスタートしました。
2-1.車両点検
夜行バス乗務員さんたちは、夕方ごろに出勤です。
さあ、バスがずらり並ぶ恩方営業所の車庫へ。
今日のオレンジライナーに乗務するお二人。よろしくお願いいたします!
お二人ともベテランで、西東京バス社内でも特に頼れる「指導営業担当員」!
まずは、バスの心臓部であるエンジンを始動させ点検開始です。
▲後面扉(エンジンルーム扉)を開いて各部品の動きや音を確認します。
▲ぐるりと、ゆっくり車両のまわりを見て回ります。
――どういったところを見ているんですか?
「主には窓やボディ・フレームなどの破損や灯火類のチェックです。街路樹などで擦れているときもあるので」
▲大事なタイヤは、点検ハンマーで叩いて確認。
▲トランクルームも確認!
一つずつ、視覚・聴覚・触覚・嗅覚そして経験をフル動員です。
異常がないことを確認したら、車内へ。
(この日は真夏。エンジンをかけたばかりの車内、すごい熱のこもりかたでした……乗務員さん、毎日お疲れさまです!!)
▲一席ずつチェック。
――今はどういった点を確認しているのですか?
「車内設備やアメニティです。クーラーや読書灯といった機器、シートに異常がないか。座席備え付けのアメニティが揃っているかをチェックします」
西東京バスの高速バスは、どの車両もトイレ付です。こちらもチェック。
▲トイレ、とても清潔でした。ほんのりいい香り。
▲13時間以上の長距離路線ということもあり、オレンジライナー号にはドリンクサービスが。
冷蔵庫、小さいながらも強力に冷えています!
車内チェックが終わったら……
清掃時に、荷物棚に上げてあった座席間カーテンをおろして、お客さまを迎える準備完了!
もう一度、車外へ。
乗務員2名体制で運行しますが、ハンドルを握っていない間、もう1名がどこにいるか、ご存知でしょうか。答えは、さっき少し写っていた……
▼トランクルームの横に休憩スペースがあるのです!
天井は低いものの、意外と広い感じ。
運転席との緊急用電話や消火器や懐中電灯など、有事に備えた設備があります。
万が一、車内でなにかがあり、しかし乗務員はハンドルを離せない。
そんなときどうするのかというと……
▲まるで隠し通路のよう!車内中央のトイレ前に出られる仕組みです。
トイレは客席の床より下、車内の階段をおりたところにあります。(トイレは1階、客席は2階のような感じ)
車体の下半分にエンジン・トランクルーム・休憩スペース・トイレがあり、
上半分が客席なんですね。
このスペースの整備も大切。ここでしっかり休養し、運転交替に備えます。
ちなみに、この点検でもし何か異常が見つかった場合、どうするのかというと……
▲営業所内に、整備工場があります。
部品交換等ここで対応できるものはすぐに修理。
メーカー等に出す必要がある場合は、別の車両を配備します。(保有車両数にゆとりがあるのは、大きなバス会社さんならでは)
ちなみに、ここで洗車も給油もできます。(オールインワン!)
2-2.点検報告・点呼
点検が終わったら、いったん車庫から営業所へ。
まず点検結果の報告を出します。「日常点検表」に抜け漏れがないか確認しつつ記入。
▲呼気チェック。アルコールは当然ご法度。
▲乗務員が携帯するバッグ。持っていかなければならないものが決まっています。内容に過不足がないか確認!
▲運行管理者との点呼。各種報告や、伝達事項の共有をします。出発前の大切な時間。
順調に進むと、少しゆっくりとした時間が流れます。
▲掲示板の連絡事項を確認。
(道路の一時通行止めによる迂回ルートであったり、車載機器の使い方であったり、共同運行先のバス会社から届いた連絡事項であったり。さまざまな情報が掲示されていました)
▲健康チェックしたり。
▲休憩スペースで体を休めたり。
そのほか、乗務員同士で談笑したり、乗務中の出来事を情報交換したりして、出発時間を待ちます。
この日は、三連休ということで、途中の道路の渋滞が心配。
いつもより少し早い18:00ごろ出発することになりました。
2-3.車庫からの出発
車庫に戻ってきました。さきほど点検した車両に乗り込みます。
いざ、出庫!
乗務員さん同士の会話は、明るく和気あいあい……という感じなのですが、内容は基本的に仕事のこと。
時刻は日暮れ時。どんどん茜色から濃紺へと移り変わる空。
▲誰もいない客席はなんだか不思議な感じ。
バスタ新宿は、各便が発車10分前に乗り場につく決まりとなっています。
今回は、19:50発なので19:40きっかりに乗り場へ入らなければなりません。
定時運行を守れるよう余裕をもって動きつつ、きちんと調整。これもまた経験が活きる場面です。
19:30過ぎ、新宿駅南口前へ。
向かって右のバス出入り口から、次々と今夜のバスが入っては出ていきます。
2-4.受付開始、わずか10分の早業
19:40、受付開始。
乗車券や予約サイトで発行された画面上の乗車票などを提示。
(昔は紙の乗車券のみでしたが、ネット予約普及により乗車時の提示物も多様化。
瞬時に確認・判断する知識が必要になっているそう)
▲「◎◎さまですね、トランクでお預かりするお荷物はありますか?はい、お座席は入って手前右の◇◇になります」
わずか10分で30名近い受付をするので、キビキビかつ正確な対応が命!
もう一人の乗務員さんが、トランクへ荷物を入れていきます。
最初の降車地・川内インターや松山で降りる方の荷物は手前へ。
一番最後の降車地・八幡浜まで乗る方の荷物は奥へ。
瞬時に判断しつつ、丁寧に積み込みます。
▲荷物の取違いを防ぐため、タグをつけるのも大切なこと。
あと3分で出発ですが、1組様がいらっしゃらない……
バスタ新宿のスタッフさんが出発時間を大声でアナウンスし、お客さまを探します。
ハラハラして見守っていると、最後のお客さまが駆け足でいらしてくださいました。
受付をし、素早く荷物をトランクへとお預かりし……
19:50、いよいよ松山・八幡浜へ向けて出発です。
お気をつけていってらっしゃいませ!!
大勢の方でにぎわうバスタ新宿を後にしながら、乗務員さんからうかがった話を思い出しました。
3.振り返って
「運転士というのは、ちょっと変わった仕事だと思うんです。
多くの仕事は、プロと初心者が同じ場に立つ、ということはほとんどありません。
けれど、運転という仕事は、わかばマークの人から、我々のようなプロまで、同じ道路を走行します。
その分、イレギュラーなことも多い。そこに対し、いかに安全に、お客さまにとって快適に運行できるかが、プロとして試されると考えています」
なるほど、と納得した言葉でした。
いつも同じルートで進む高速バス。
けれど、その日のお客さま、天気、同じ道を走る他の車両、どれをとっても、まったく同じ状況は二度とありません。
安全への取り組みは、これで完璧というゴールがあるものではないのです。
だからこそ徹底して、プロ意識をもって取り組みたい。インタビュー前半で、「当たり前のことを当たり前のように徹底したい」という言葉もありました。まさにその言葉通り、日々全国へとバスを走らせているんだなと感じた取材でした。
※本記事は、2021/03/04に公開されています。最新の情報とは異なる可能性があります。
※バス車両撮影時には、通行・運行の妨げにならないよう十分に配慮して撮影を行っています。