最高級バス『ドリームスリーパー』乗車体験記 ~本当に夢心地なの?~
公開日:2015/02/14
更新日:2022/08/05
バスなのに11席しかない。バスなのに完全個室。バスなのに土足厳禁。
噂では超ゴージャスな乗り物らしい。東京⇔大阪 乗車時間9時間(走行距離530km)、東京⇔広島 乗車時間12時間(走行距離830km)。
いっちょ噂の真相を確かめてやろうじゃないか。
ドリームスリーパーのリアルが今、白日の元にさらされる!
1.はじめに
世の中は我々の想像を超える事象であふれている。
宇宙の深淵。深海の領域。考えたらきりがないだろう。
それは、未だ体験したことのない世界。
今回ご紹介する高速夜行バス『ドリームスリーパー』も、これまでの常識を覆す衝撃の車両なのだ。
ベッドでないと眠れない筆者(当時37歳男性)が、その身をもって体感したドリームスリーパー乗車記録。
これから語られるのは、事前の台本も脚色もない、紛うことなきノンフィクションである。
2.ドリームスリーパーってどんなバス?
まずは高速路線バス『ドリームスリーパー』について、基本となる知識をざっと紹介しよう。
≪東京⇔大阪≫
- 運行バス会社/ 両備バス、関東バス
- 運行路線/ 池袋駅・新宿駅 ⇔ なんば・大阪駅前・門真車庫
- 走行距離/ 526キロ
- 乗車時間/ 9時間
- 乗務員/ 2名
≪東京⇔広島≫
- 運行バス会社/ 株式会社中国バス
- 運行路線/ 中筋駅・広島バスセンター・広島駅・中筋駅・福山駅・広尾 ⇔ 東京ドームホテル・大崎
- 走行距離/ 833.4km
- 乗車時間/ 12時間
- 乗務員/ 2名
このように東京・大阪間と東京・広島間を移動している長距離路線です。
では何がこのバスを注目たらしめているのか。それは、座席の数。
通常の高速バスでは、横4席、縦11列~10列の総座席数40~45席となる。
席自体が独立したワンランク上の横3席のシートでも、バス1台あたりの総座席数は30席程度。
だが、この『ドリームスリーパー』は、総座席数わずか11席。横に2席ずつ縦6列の配置となっているのだ。
各個室の寸法は幅約85cm、奥行き約160cmで、部屋によって若干異なる。
このバスに乗れるのは11名だけ。
1人あたりの占有面積は通常バスと比較すると、4倍になる。
※超豪華2列シート車両『ドリームスリーパー』。白を基調とした洗練されたカラーリング。
僕は仕事柄、日本全国を様々な交通手段を用いて移動している。
もちろん都市間バスもそのひとつ。
その僕をもってしても、仕事でファーストクラスを味わったことは、これまでただの一度もない。いったい、どんな贅沢感を味わわせてくれるのだろう。
期待に胸を膨らませて2015年1月某日を迎えたのであった。
3.乗車までの楽しみ方(広島編)
乗車当日の広島は、1月にしては寒さの和らいだ気温11℃。
『ドリームスリーパー』始発となる広島駅新幹線口乗り場を確認。
都市間バス用の1番乗り場は新幹線口から出てすぐのところにあり、見失うことはない。
(※2020年11月現在、広島駅新幹線口④番乗り場に変更になっている。始発は中筋駅。)
出発時刻は20:20。ってことはまだ1時間30分もあるではないか。
※東京・名古屋方面へは、JRバスさん運行のニューブリーズ号や広島ドリーム号も発着している。
これから12時間もの長時間バスに揺られなければならないのだ。
ここは長丁場に備えて、しっかりと飯を食っておこう。
思いつくのは1箇所しかない。簡単な手荷物一つという出立ちの僕は、足取りも軽く“いつもの場所”へ行く。
その場所こそが、広島駅南改札側にある広島駅ビルアッセ。
(※広島駅ビルアッセは2020年3月31日をもって閉館)
この2Fが広島風お好み焼き屋さんが立ち並ぶ一角となっており、僕は広島に来たら必ずここで食事をすることにしている。
※夕食時のラッシュ時は、どのお店も席待ちのお客さんであふれかえる。
駅ビルにあるテナントだから、とうぜん出張族のサラリーマンや観光客が多い。
いっときは地元のお客さんが通うような店を探して、原爆ドーム周辺にも食指を伸ばしてみた。
しかし、何だろう。確かにうまいのだが、駅ビルの時のような感動がなかったのを覚えている。
思えば、僕は賑やかな雰囲気が好きだ。博多の屋台通り、大阪の通天閣、東京のアメ横・・・。
ああいった人いきれに咽ぶ雑多なロケーションに引き寄せられるように、広島で食事となれば、今では駅ビル一筋だ。
※贔屓の店はなく、毎回違う店に食べにいく。この日は「老松」さん。店先でおばちゃんが一番頑張って客引きしていた。
腹が満たされば、人は眠くなるという。
その慣例に従い、奮発して『ソバW』をオーダー。めでたく満腹と相成った。
本当はアルコールも大量摂取したいところだが、万が一乗り物酔いして同乗者に迷惑をかけてはいけないと思い、自粛。さあ、あとは乗車して寝るのみ!
ここで一つマメ知識。
広島駅での高速路線バスの乗車地は、新幹線口(駅北側)にある。
僕が足繁く通う広島駅ビルアッセは、まったくの反対の南口改札側にある。
実は北側と南側はコンコースで結ばれていないのだ。
南北を往来するには駅ビル地下にある連絡通路を使うほか道はない。
この地下道は思いのほか長大で、通り抜けるのにたっぷり5分はかかるだろう。
出発ギリギリまで南口にいると、いざ新幹線口へ行く時にめっちゃ焦ることになる。注意しろ!
※標識には「地下自由通路」とあった。初心者にはここを見つけるのにも一苦労。ゆとりある行動を。
4.いざドリームスリーパーへ乗車
20:00。南口から地下道を使って新幹線口へ戻る。
ロータリーには、すでに『ドリームスリーパー』が乗車時間に備えて駐機状態。
バス停には大きな荷物を抱えた若い女性が一人。どうやら同じバスに乗るみたいだ。
駐機状態にある『ドリームスリーパー』は、1つ前の米子行きバスが出発すると、ゆっくりと1番バス停に入場してくる。
その姿を見たのか、どこからかもう1名の男性客も現れ、僕を含め3名が広島駅からの乗車とあいなった。
※ボディに踊る『DREAM SLEEPER』の文字。その下にさり気なく『GUSSURI』って(笑)。遊び心も微笑ましい。
さあ、見せてもらおうか、最高ランクの夜行バスの実力を!
真っ先に乗車口に足をかける僕に、すぐさま傍らの乗務員さんが声をかけてきた。
「そこから先は土足厳禁となっております」
え、なに、靴を脱ぐの?バスで???
たじろぐ僕にスッと差し出されるビニール袋。
間違いない。車内は白いカーペットが敷き詰められており、乗客は車内を裸足で過ごすスタイルなのだ。
靴を脱ぎ、上がった途端に鼻腔をくすぐる芳香。
アロマ、だと・・・・!?入口わきに設置されていた機械から、ドライアイスのような蒸気が微かにゆらめいている。一歩入ればたちまち別世界。
さすがだな、やはりこれくらいは当たり前というわけか。まずは合格点。
だがしかし、そんな上から目線は、車内に入ると瞬時に吹き飛ばされることになる。
※『ドリームスリーパー』内部。ご覧の通り左右は個室状態。列車やフェリーの寝台部屋の様相。SFか?
なんだこの光景は・・・。
座席が、ない!
1席ごと壁とカーテンで完全に仕切られ、これだけ見れば、これがバスの中とは誰も思うまい。
車内は白とブラウンの落ち着いた彩り。天井からの柔らかい光はLED電灯だろう。
後から乗ってきた若い女の子も、初めての利用なのか、想像を超えた車内の光景に目を丸くしていた。「うわぁ~」って言ってた。
5.高速夜行バスにして最高クラスの座席を体験
『ドリームスリーパー』にはたった11席しかシートがないことはお伝えした通り。
しかし、この11席の中にもグレードが存在することをご存じだろうか。
実は、11席の中のさらに前方4席だけはより快適性を追求したシートになっている。
(※2020年11月現在、11席すべてのシートタイプが同じとなっています)
まず、背面まで壁で仕切られているため、後ろの利用者の気配を感じることはない。
座席を最大まで倒しても迷惑をかけることは皆無なのだ。
そのシート自体も、宇宙ロケットの形状を元に開発された「ムアツクッション」。
高さやリクライニングといった座席の位置調整は完全電動仕様となっており、フットレストも水平まで設定することができる。
背もたれ角度を40度、座席角度を30度、フットレストを180度に設定することで、無重力状態を感じすることができるという。
NASAの理論に着想を得たこの限定4席のシートは、その名も≪ゼログラビティ≫!
※≪ゼログラビティ≫というが、実際はしっかり1Gの重力がかかっている。
後方10席のシートも座席素材自体は同じものと思ってもらってよいようだ。
エグゼクティブの場合、背面の壁がないのと、座席が電動ではないというのが最大の違いとなる。
そのほか、シートピッチ(足元の広さ)がゼログラほど広くないのと、リクライニング自体の角度にも限界があるようだが、シートの素材自体はどちらも変わらない。
(※2020年11月現在、11席すべてのシートが前方と同じタイプとなっています)
戸口のカーテンを閉め切ってしまえば、そこはもうマンガ喫茶の個室ブースと何ら遜色ない。
これなら周囲に全く気兼ねすることはあるまい。半裸、いや全裸になっても気づかれはしないだろう。(ならんけど)
思わず、「ネットカフェか!」と突っ込みを入れてしまいそうになる。
(ただしパソコンはありません)
“快適を標準装備”とは、うまいこと言ったもんだ。
ちなみに気になるお値段ですが、17,500円~。
新幹線で広島から新横浜が18,380円(20/11/26現在)なので、価格的にはほとんど変わらない。
新幹線よりも安くファーストクラスの旅が味わえると考えれば、ありかも。
席をおさえられれば、だけど。
気づけば例の女の子も≪ゼログラビティシート≫に座って出発前の車内を一心不乱に写メしていた。この風景を目の当たりにしたら、ま、そうなるわな。
※最後尾にはトイレとパウダールームが。使用中だと上のマークが点灯する仕組みだ。
6.ドリスリ発進!充実すぎる車内アメニティ
20:20。夢の乗り物『ドリームスリーパー』は定刻に広島駅を出発。
運転手さんは2名。この運転手さんの年配の方がめっちゃ広島のネイティブスピーカーで面白かった。
出発前に運転手さん同士で話しているのが漏れ消えたのだが、故・菅原文太氏もかくやという広島弁。「~じゃろう、ガハハ」って豪快なおっちゃんだ。
そして、出発後の車内アナウンスですよ。
いったいどんなイントネーションになるんかなと楽しみにしていたら、こちらは打って変わって流暢な標準語。
ちょっとがっかりした。いっそ広島弁のままにした方がみんな聞いてくれると思う。
20:33。広島駅から数えて最初の乗車地、「広島バスセンター」に到着。
(※2020年11月現在、広島バスセンター⇒広島駅新幹線口⇒中筋駅に変更となっています)
都市間バスから地域のコミュニティバスまで、ここは文字通りあらゆるバスが行き来する、広島の一大バスターミナル。
この中でも間違いなくナンバーワンの豪華さを誇る『ドリームスリーパー』。
なんだか乗っている僕も誇らしい気分。さあ道を空けろ、ドリスリ様のお通りだあ!
※トイレ。車内は土足厳禁なのでトイレにはスリッパがあった。なんだがお家みたい。
ここでさらに2名乗車。
入口で「すいません、そこから土足厳禁なんです」「え、あらそうなの」なんてやりとりが聞こえる。オバチャン、大丈夫。僕も指摘を受けた仲間ですよ。
20:47。3番目の乗車地「中筋駅」はアストラムラインと呼ばれる電気鉄道(?)の駅でも、割とメジャーな地点。
停車したのでカーテンの隙間から外を覗くと、真っ暗!
ホンマにここ、駅なの?と訝しんでしまうが、ホームはモノレールみたいに高い所にあるようだ。
「中筋駅」でも1人が乗車。
静かに通路を進み、僕の真後ろの≪ゼログラビティシート≫に座った気配があった。
彼(もしくは彼女)は、しばらく座席でゴソゴソやっていたが、やがてカシャ、カシャッとシャッターを切る音が。みんな珍しいんだろうな。
後方の人物の驚き顔を想像して、こちらも思わずニンマリ。
「中筋駅」を出発すると、次の停留所まで30分ほどある。
僕はコンセントに携帯の充電器を突っ込み、ようやく落ち着きを取り戻す。
一息ついたところで、ゆっくり座席周りを物色することにした。
※座席側面のラックに設置されているカタログ。“快適”さの追求に腐心した結果がズラリ。
まずは足元にある≪ドリームスリーパー≫専用のポーチを空けてみる。
中からは出てくる出てくるこだわりグッズの数々。
耳栓、ブラシ、アイマスク、歯ブラシ。スリッパも含めて全てに≪ドリームスリーパー≫のロゴマークがあしらってあるこだわりっぷり。どれも普通の夜行バスにあるものよりも明らかに上質だ。
カタログには「ゼログラビティ利用者は無料。エグゼクティブ利用者は有料(500円)」とある。やったぜ!
(※2020年現在、アメニティはすべての方に提供に変更)
他にもピンク色の読書灯をつけたり消したり、ゼログラビティシートの最適な角度を探して電動スイッチをいじったり、椅子に設置されている枕の位置をあれこれ変えたりしたいたら、あっという間に30分がたち次のバス停に着いてしまった。
カタログには「最高の眠りを提供します」とあったけど、今こんなに興奮している僕を、果たして眠らせてくれるのですか?
※≪ドリームスリーパー≫アメニティグッズたち。その後のバス取材でも、必需品として重宝しています。
21:22。バスが止まって、入口が開いた音で次のバス停「西条昭和町」に着いたことがわかった。
(※2020年現在、乗車場所からなくなっています)
それほど、車内は個室感覚で、周囲の様子が確認できない状態なのだ。
外を覗くと、やはり真っ暗闇。ここでも1人が乗車したようだ。
足音が後ろの方の席に着くと、バスは静かに出発。
そういえば、出発するたびに入る運転手さんのアナウンスがあるのだが、一番最初に必ず「快眠バス、ドリームスリーパーにご乗車いただきありがとうございます」と言ってくれます。
快眠バスて! いや、たしかにそうだけれども!(笑)
※座席の隣で丸く光っているのはイオン発生器「ナノイー」。除菌・脱臭をしてくれる物言わぬ紳士。
7.伊達じゃなかった!快眠アイテムの威力
我らが≪ドリームスリーパー≫号は、「西条昭和町」を出発すると、高速道路に乗ったようだ。ぐんぐん速度を増し、次なる目的地「福山駅」を目指す。
しかし、ここで案の定というか、やっぱりな心配事が。
座席は文句なく快適なのだが、どうにもこうにも眠れない。
そうなのだ、僕はちゃんとしたベッドでなければ睡眠が取れない体質なのだ。
おまけに、室外の通路はまだしっかり明かりがついている。
駄目なの!真っ暗じゃなければ眠れないのよ!
無重力に身を委ね、努めて心穏やかに瞼を閉じようとも、意識はただひたすらにここに有る状態。
どうにもこうにも困り果てていたのだが、ここでふと同僚の言葉を思い出した。
そうだ、たしか耳栓とアイマスクを使うと断然違うって言ってたな。
快眠を追求された中国バスさんも、マストアイテムとしてアメニティに加えているくらいだ。
今まで使った試しがなかった耳栓とアイマスクをいよいよ使用するときがきた。
そっと装着してみる。
・・・・・・・・・・・・うん。いいぞ、なんかいい。
たしかにリラックスできる気がする。
この調子で≪ドリームスリーパー≫の快眠グッズを全て浴びたら、どんな不眠症でも眠らせてくれるのかも。
壁にかけてあるヘッドフォンをセット、幾つかある快眠音楽の一つを流してみる。
※BGMは座席脇にあるチャンネルから。「休日カフェ」「からだにいいおと」「高原の朝」などなど
ほのかに流れてくる穏やかな虫の音。遠くに聞こえるのは小川のせせらぎ?
別のチャンネルにすると、ひたすら寄せては返す波の音が。ここは、無人島なの?
α波?β波? 和むドーパミン出まくりのヒーリングサウンド。
視覚を遮断された脳内に、溢れるリラクゼーションの快楽。
これはまさに、癒しの洪水やでぇ!
人の気配を感じさせない車内で、これ以上ないリラックスムードを体感。
ほんまに快適を追求しとるな。
22:25に「福山駅」到着。
そのあと15分ほどで最後の乗車地「広尾」に到着。
(※2020年現在、福山駅と広尾は乗車場所からなくなっています)
この時点で、かなり癒されており、心地よいまどろみが襲ってきていた。
まさか、この僕が夜行バスで睡魔と闘う日が来るとは。
たぶん最終的に10人ほどが乗車したと思う。
「広尾」を出発すると、これまでと違うアナウンスとなった。
「快眠バス、ドリームスリーパーにご乗車いただきありがとうございます」の出だしこそ同じだったが、このあとの目的地までの休憩の案内が入った。
それによると、途中休憩は4回。龍野西SA、草津SA、浜松SA、足柄SA。
ただし! 乗客がバスを降りることができるのは最初の竜野西SAだけらしい。
あとの3回は乗務員が運転を交代するだけで、外には出れないとのこと。
車内にトイレはあるとはいえ、600km以上もクルマから出ることができないなんて。ちょっと不安。
なお、アナウンスの最後によくある「狭い車内ではありますが、ごゆっくりおくつろぎください」の締めセリフは無かった。そらそうだ、広いもんな。
※座席の壁にはコート掛けやドリンクホルダー。緊急時の呼び出しボタンまで。至れり尽くせりとはこのことか。
最後の乗車地を出ると、車内はついに完全消灯となる。
冷静になって考えたら出発時間が20:20と、全国の夜行バスの中でも抜きん出て早いのだった。今でようやく23時。関西発のバスなら今からが始発なのだ。
ここは、岡山あたり。横浜までの道のりは、まだまだ長いな・・・。
ふと思ったのも一瞬、五感を包む快楽空間の中で、いつしか僕は眠りに落ちていた。
8.途中休憩とくつろぎ具合
24:00。最初で最後の休憩場所『龍野西SA』に到着。
目が覚めても真っ暗。ああ、そうかアイマスクしてた・・・。
小川のせせらぎを止めると、急速に現実に戻ってきたような感覚。
このままボーっとしていたいけど、ここを逃すと横浜までは降りることができない。
せっかくの眠りのペースを維持したかったが、ここは取材のため、無理に外に出る。
さ、寒い!!!
ここはどこだ? 岡山かな?(実際はすでに兵庫県)
わりあい大きなサービスエリアだとは思うが、暗すぎたのと寝ぼけまなこなのとでボンヤリ。
※龍野西SAでは、同じ中国バスが運行する3列独立車両『メイプルハーバー』号の姿も。ドリスリの妹的存在。
1月下旬の山間部は気温0度。
吐く息も白く、トイレを済ませ道草もせずに足早にバスに向かう。
すると、いくつもの大型車両の中に、側面を発光させた異色のバスが目に飛び込んできた。
あの光こそが我らが≪ドリームスリ-パー≫!
車体に特殊素材を採用し、夜間でも見つけやすくなっているのだ。
ああ、迷い人をいざなう、救世の光よ!
※この時は星マークが発光していた。≪DREAM SLEEPER≫のロゴマーク自体が輝く場合も。どこまで魅了したら気が済むのか!
24:15。龍野西SAを出発。
このときばかりは乗務員さんがカーテンを少し開けて、人数チェックをしていた。
万が一にも、置き去りになっていないかを確認するため。この確認は重要だ。
(全裸じゃなくて良かった)
日付は変わって翌1:58。草津SAに到着。
ああ、また寝てた。完全に落ちてた。
低反発枕ですら裸足で逃げ出すこの僕が、またしても・・・。
最初のアナウンス通り、草津には止まったものの運転手の交代だけですぐに出発。
目を覚ましたら、車内がとても冷えていると感じた。
上質なブランケットはあるが、それでも足りない。壁にかけていたジャケットを毛布がわりに再び眠る。
広いがゆえ、乗る人間の数が少ないゆえの現象か。
冷え性の方は、防寒対策を万全にして来た方がよさそうだ。
※唯一の休憩場所「龍野西SA」。このあと6時間はバスに缶詰。でも結果的には車内トイレに行くこともなかった。
そこからも快眠バスの名前を欲しいままに、夢魔は僕をドリームスリープに引きずり込んだ。見事に意識がないのだ。
気が付くと神奈川県の「足柄SA」。4番目、つまり最後の乗務員交代地点だった。
3番目の「浜松SA」に全く気がつかなかった・・・・・。
時刻は6:10。滋賀県「草津」の記憶を最後に、愛知県、静岡県の記憶ががポッカリと空いている。
何度も言うが、この僕をバスの座席で熟睡させるとは。
“ワンランク上の快適な移動空間”の殺し文句に死角なし。
車窓からの夜空は、東から深い藍色に変化しつつある。
間もなく夜明けを迎えようとしていた。
※起き掛けに「龍野西SA」で買った関西限定カフェオレをぐびり。ご当地商品に出会えるのも、旅の醍醐味。
9.そして横浜へ。乗車し終えての感想
足柄SAを出た≪ドリームスリーパー≫は東名高速「横浜町田IC」を降りる。
最初の降車場所「町田」ヘ向かって快調に下道を進み、7:14には「町田バスセンター」に到着した。
(※2020年現在、降車場所は東京ドームホテルと池袋駅のみになっています)
あいにくの曇天からは霧のような雨が降り、道行く人々も肩をすくめながら傘をさしている。
街頭の様子があまりにも寒そうだったので、部屋からは一歩も出ず、ブランケットとジャケットを引き寄せ外気から身を守る。
おかげで何人降りたのか把握しそびれてしまったが、まあいい。我が身が最優先だ。
「町田」を出ると、いよいよ終点「横浜バスターミナル」となる。
昨晩20:20に出発して、横浜まで12時間と10分の旅。830kmもの移動距離だ。
ただ流石は“ゼログラビティシート”。快眠グッズの手助けもあり7時間以上も寝て過ごすことができた。
8:20。横浜に入ると、目覚めを促す心地よい音楽とともに車内通路が点灯。
広島出身運転手さんによる標準語アナウンスが、到着まであと5分と告げる。
外は相変わらず小雨が降っているが、「横浜バスターミナル」はYCATと呼ばれる巨大商業施設内にある。そのため降車時は雨風に晒される心配はなし☆
※車両最後列にあるパウダールーム。僕は顔を洗った程度だったが、女性には嬉しいスペースに違いない。
≪ドリームスリ-パー≫が停車する。
残った乗客が荷支度を整え、新たな旅路へ向かっていく。
僕は気力も体力も十分。
2人の運転手さんも、あれだけの距離を運転してきたにもかかわらず疲労の色はなく、車外トランクからお客さんの重そうなトランクケースを担いでいる。
男じゃけえの!
こうして、限定11席、夢の快眠バス≪ドリームスリ-パー≫との冒険は幕を閉じた。
最高級シートバスとして、生涯に一度は乗るべきだし、僕のように枕が変わると眠れない人間にもおすすめだ。
運行路線は広島⇔横浜と、ちょっとニッチな行程なのも、これまたレア感が増すようでいいな。今回は本当に貴重な体験ができた。
(※2020年現在、東京⇔大阪間と東京⇔広島間の運行がございます)
中国バスが提唱した、次なる乗り物の形、新時代の高速乗合バス。
本当にこれが次世代のスタンダードになる日が来るのかもしれない。
最後に。
この≪ドリームスリ-パー≫に興味が湧いた、もっと知りたいという読者のために、高速バスドットコムではドリームスリーパーを紹介するページも用意している。
こちらも併せてご覧いただきたい。
(編集者:注)
掲載されているバスの車内画像は、運行会社中国バスさんから事前に許可をもらったうえで、特別に撮影させていただいたものです。通常、夜行バス車内での写真撮影は禁止されております。
プライバシー尊重のため、みなさんくれぐれもお気を付けください。
※本記事は、2022/08/05に公開されています。最新の情報とは異なる可能性があります。
※バス車両撮影時には、通行・運行の妨げにならないよう十分に配慮して撮影を行っています。